大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和34年(行)12号 判決 1965年4月15日

神奈川県鎌倉市大船七七番地

原告

合資会社 ときわ

右代表者代表社員

村松万吉

神奈川県藤沢市藤沢大道東一二八番地

被告

藤沢税務署長

大山網明

国指定代理人

法務省訟務局局付検事

山田二郎

国指定代理人

法務省訟務局第五課法務事務官

鴫原久男

国指定代理人

横浜地方法務局訟務課訟務課長

前田精一

被告指定代理人

東京国税局直税部大蔵事務官

山田保明

被告指定代理人

東京国税局直税部国税訟務官付大蔵事務官

渡辺清

被告指定代理人

藤沢税務署法人税課大蔵事務官

田辺親義

主文

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(一)  (原告)被告が原告に対し昭和三四年三月二五日付でなした原告の昭和三二年四月一日より昭和三三年三月三一日に至る事業年度分の所得金額、法人税額の更正決定(但し東京国税局長の審査決定により所得金額は金三七六、三〇〇円、法人税額は金一三一、七〇〇円とされ、右金額をこえる部分は既に取消されている)は所得金額金一三四、三〇〇円、法人税額金四七、〇〇〇円をこえる部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

(二)  (被告指定代理人)原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の主張する請求原因

(一)  原告は昭和三二年四月一日から昭和三三年三月三一日迄の事業年度(以下係争年度という)分の所得金額を金一三四、三〇〇円、法人税額を金四七、〇〇〇円として確定申告をしたところ、被告は昭和三四年三月二五日付で左記更正決定欄記載のとおり所得金額金七一七、二〇〇円、法人税額金二五一、〇二〇円と更正決定をなしたが、これに対する原告の再調査請求(審査請求にみなされた)により東京国税局長は昭和三五年六月二四日付で左記審査決定欄記載のとおり更正処分を一部取消し、所得金額を金三七六、三〇〇円、法人税額を金一三一、七〇〇円とする旨の審査決定をなした。

科目 更正決定 審査決定

1  当期申告利益金 一〇一、一八七円 一〇一、一八七円

2  損金計上 法人税否認 二三、四八〇円 二三、四八〇円

3  右同市民税否認 九、六五〇円 九、六五〇円

4  売上計上洩れ 一、一五二、〇〇〇円 二八五、五五八円

すし類   一七九、八一六円

中華そば類   一〇五、七四二円

(米仕入分)

5  仕入計上洩認容 △ 五六九、〇八八円 △ 四三、四八九円

6  当期所得金額 七一七、二〇〇円 三七六、三〇〇円

1+2+3+4-5   (一〇〇円未満額は切捨)

7  法人税額 二五一、〇二〇円 一三一、七〇〇円

8  過少申告加算税額 一〇、二〇〇円 四、二〇〇円

(二)  しかし原告の係争年度分の所得金額は左記損益計算書記載のとおり金一三四、三〇〇円が相当であつて、右更正決定は審査決定によつて一部は取消されたものの、なお何ら存在しない所得金額についてまで課税処分をなしている。そこで所得金額一三四、三〇〇円、法人税額金四七、〇〇〇円をこえる部分は違法であるから右更正決定(審査決定によりその一部を取消されている)のうち前記のとおり金一三四、三〇〇円の所得金額をこえる部分の取消しを求めて本訴に及ぶ。

損益計算書

Ⅰ  売上高 金三、四三四、六四二円

(1) 食堂部

1 料理売上 金 二、一五四、四八二円

2 飲料売上 金 六一八、八三〇円

(2) なの花(旅館部)

1 料理売上 金 二二六、三九〇円

2 飲料売上 金 二三四、六九〇円

3 宿泊料席料収入 金 二〇〇、二五〇円

Ⅱ  売上原価 ((1)+(2)-(3)) 金 一、七一三、六〇三円

(1) 期首商品及材料棚卸高 金 四〇、八五三円

(2) 当期仕入高 金 一、七〇七、三九八円

1 材料仕入高 金 九九一、〇〇一円

2 副材料仕入高 金 八三、二〇九円

3 飲料仕入高 金 六〇〇、三八六円

4 雑仕入高 金 三二、八〇二円

(3) 期末商品及材料棚卸高 金 三四、六四八円

Ⅲ  売上総利益(ⅠⅠⅡ) 金 一、七二一、〇三九円

Ⅳ  一般管理費及販売費 金 一、六〇八、二八四円

内訳

給料手当 金 三九一、〇〇〇円

給食費 金 二八八、〇〇〇円

光熱 水道料 金 二三七、一〇九円

消粍品費 金 二七、〇四九円

広告宣伝費 金 二四、五〇〇円

交通費 金 二一、一三〇円

通信費 金 五〇、二二四円

事務用消粍品費 金 一、七〇五円

贈答品費 金 一、〇二三円

組合費 金 五、一〇〇円

賃借料 金 二四〇、〇〇〇円

支払修繕料 金 一四、一八〇円

螢光灯取付工事費 金 一三、一〇〇円

減価償却費 金 一五三、六二二円

租税課金 金 四八、二八〇円

雑費 金 九二、二六二円

Ⅴ  営業利益(Ⅲ-Ⅳ) 金 一一二、七五五円

Ⅵ  営業外収益 金 二七、五三七円

Ⅶ  当期総利益 金 一四〇、二九二円

Ⅷ  営業外費用(支払利息及び貸倒損失) 金 三九、一〇五円

Ⅸ  当期純利益(Ⅵ-Ⅷ) 金 一〇一、一八七円

Ⅹ  損金に計上していた租税(法人税及び県市民税) 金 三三、一三〇円

これは損金に計上すべきものではないので、右金額を当期純利益に加算した金一三四、三〇〇円(一〇〇円未満切捨て)が前記事業年度における所得金額となる。

第三被告の答弁及び主張

(一)  請求原因第一項は認める。第二項は争う。

(被告の主張)

(二)  原告は、すし並びに中華そば等の飲食営業と旅館営業を併せ営んでいるものであるが、その経理状況は現金の出納に当り単に入出金伝票を作成しているのみであつて、日々の現金管理が十分に行なわれているとは言い難く、又後日作成されたと考えられる現金出納帳にも売上洩れが存することが明白に認められた。加えてその他の記録についても、たとえば旅館部「なの花」における売上を明らかにする記録としては、公給領収証の控があるのみであり、これに売上額が記載される迄の経緯は全く不明であつた。そして原告の営業取引はその大半が現金取引であるから、これが管理の当否は必然的に原告の申告所得の当否に影響するものと考えられるが、右に述べたような記帳状況を基礎に算出された原告の申告所得は係争年度における原告の営業成績の実態を具現しているとは認められないので、やむを得ず法人税法(現行法第三一条第二項〔決定当時の法第三一条の四第二項〕)規定の推計課税の方法によることにしたのである。

(三)  その推計課税の計算方法は次のとおりである。

(1)  すし類の売上計上洩れ

(イ) 係争年度における酢の総使用量一石九斗

右は原告備付の総勘定元帳の仕入勘定の調査によつて算出した。

(ロ) 右酢のうち打酢の使用割合六〇%

同業者より聴取した結果では打酢の使用割合は六〇%(乙第三号証)、七五%(乙第四号証)、六六%(乙第五号証)、となつているが、原告の場合旅館の方でも若干の酢の需要があつたと認められるので六〇%とする。

(ハ) 当期打酢の全使用量((イ)×(ロ)) 一石一斗四升

一(石)九(升)×六〇(%)=一(石)一(斗)四(升)

(ニ) すし用飯米一釜に対する打酢使用量 二・一合

同業者より聴取した結果では右使用量は二合(乙第三号証)、二・二合(乙第四号証)、二・一合(乙第五号証)であつたので三者の平均値二・一合を採用した。

(ホ) 打酢使用量より推計した係争年度における総釜数(すし用)

(ハ)÷(ニ) 五四二・八釜 一(石)一(斗)四(升)÷二・一(合)=五四二・八(釜)

(ヘ) 一釜からとれるすしの食数 二六・六六七食

右は原告会社代表者の申立により算出した。即ち申立のすし飯一釜の米使用量二升を同じく申立に従つたすし一人前の米の所要量平均七・五勺によつて除したものである。 二(升)÷七・五(勺)=二六・六六七(食)

(ト) 打酢使用量から推計したすし売上食数(ホ)×(ヘ) 一四、四七四食

五四二・八(釜)×二六・六六七(食)=一四、四七四(食)

(チ) 原告備付の売上伝票に基づいて算出した原告のすし売上食数一〇、八八四食(内訳鉄火巻二三八食、鉄火丼二二六食、鮪すし一七二食、にぎり八、〇二六食、ちらし一、二四五食、のり巻九七七食)

(リ) 旅館部におけるすし売上推定食数 二二四食

二二六、三九〇(円)(原告の損益計算書に記載されている旅館部の係争年度における料理売上高)×一〇(%)=二二、六三九(円)

二二、六三九(円)÷一〇〇・八五(円)(すし一食分売上平均単価、(ル)参照)=二二四(食)

旅館部において提供した個々の料理の内訳は不明である。旅館で提供される料理のうちですしが相当量を占めることは一般に考えられない。一応旅館部の料理売上の一〇%がすしの売上であるとみて計算した。

(ヌ) 売上計上洩れ食数((ト)-(チ)-(リ))、三、三六六食 一四、四七四食-一〇、八八四食-二二四食=三、三六六食

(ル) すし一食分売上平均単価 一〇〇・八五円

これは原告会社備付の売上伝票に記載されているすし類の品目別売上の割合がほぼ実態を表わしているものと考えて次の計算方法により算出した。

種別 単価 売上記帳数

鉄火巻 一三〇円 二三八食

鉄火丼 一三〇円 二二六食

鮪すし 一三〇円 一六二食

にぎり並 一〇〇円 八、〇二六食

ちらし 一〇〇円 一、二四五食

のり巻 九〇円 九七七食

右平均売上単価 一〇〇・八五円

(ヲ) すし売上計上洩金額((ヌ)×(ル))三三九、四六一円 三、三六六(食)×一〇〇、八五(円)=三三九、四六一(円)

(2)  中華そば類の売上計上洩れ

(イ) 係争年度における中華そば、わんたんの原料仕入金額 金五一、四三〇円

右は原告備付の総勘定元帳の仕入勘定の調査により判明したものである。

(ロ) 中華そば、わんたんの仕入割合 九対一

原告の仕入帳の調査によれば、係争年度における中華そばとわんたんの仕入割合はほぼ九対一と認められる。それ故中華そば原料仕入金額五一、四三〇(円)×九〇(%)=四六、二八七(円)

わんたん原料仕入金額五一、四三〇(円)×一〇(%)=五、一四三(円)

(ハ) 原料仕入金額から推計した売上食数

中華そば原料は一〇〇円で一七玉(原告会社代表者申立)従つてそばの推計売上数は四六、二八七(円)÷一〇〇(円)×一七(玉)=七、八六九(食)

わんたんの原料は一人前(一食)一〇円(原告会社代表者申立)。

従つてわんたんの推計売上数は五、一四三(円)÷一〇(円)=五一四(食)

よつて中華そば、わんたんの推計売上総食数は七、八六九(食)+五一四(食)=八、三八三(食)

(ニ) 原告備付の売上伝票記載のそば、わんたん類売上総数六、一九一食

(ホ) 旅館部における中華そば類の売上推定食数 四六九食

旅館部において中華そば類を提供する事例は極めて稀であると判断されるが、一応旅館部の料理売上(1)(リ)の一〇%を中華そば類の売上分とみることにする。(1)(リ)と同様の計算方法をとる。

二二六、三九〇(円)(原告の損益計算書に記載されている旅館部の係争年度における料理売上高)一〇(%)=二二、六三九(円)

二二、六三九(円)÷四八・二四(円)(中華そば類の一食分平均売上単価(ト)参照)=四六九(食)

(ヘ) 売上計上洩れ食数((ハ)-(ニ)-(ホ))一、七二三食

八、三八三(食)-六、一九一(食)-四六九(食)=一、七二三(食)

(ト) 中華そば類の一食当り平均売上単価

種別 単価 売上記帳数

そば、わんたん 四〇円 五、三四〇食

五目そばその他 一〇〇円 八五一食

六、一九一食

右一食当りの平均単価 四八・二四円

(チ) 中華そば類の売上計上洩れ金額((ヘ)×(ト)) 八三、一一八円

四八・二四(円)×一、七二三(食)=八三、一一八円

(3)  米の仕入計上洩れ

(イ) 係争年度における米仕入量 一六石三斗

右は原告備付の総勘定元帳の仕入勘定の調査によって算出したものである。

(ロ) 米食一人前当り米所要量平均七・五勺(原告会社代表者申立による)

(ハ) 係争年度における原告の米所要量(原告備付の伝票に基づいて算出する)一八二、四八二・五勺

種別 食数

すし類 一〇、八八四食

丼もの 三、八八七食

従業員給食分 従業員給食分は八人が一日三食として係争年度を三六五日として計算する八、七六〇食

旅館使用分 原告備付の総勘定元帳の売上勘定の調査により宿泊料収入二〇〇、二五〇円を算出し、これを一人当りの宿泊料五〇〇円(原告会社代表者の申立による)で除し、宿泊推定延人員四〇〇人とみこむことにし、この宿泊員一人当り二食をとるものとみて八〇〇食

合計二四、三三一食

七・五(勺)×二四、三三一(食)=一八二、四八二・五(勺)

(ニ) すし売上計上洩れ分の米所要量 二五、二四五勺

七・五(勺)((ロ))×三、三六六(食)((1)(ヌ))=二五・二四五(勺)

(ホ) 米の総需要量((ハ)+(ニ))二〇七、七二七・五勺

一八二、四八二・五(勺)+二五、二四五(勺)=二〇七、七二七・五(勺)

(ヘ) 米仕入計上洩れ数量((ホ)-(イ))四四七・三升

二〇七、七二七・五(勺)-一六三、〇〇〇(勺)=四四、七二七・五(勺)

(ト) 米仕入平均単価 一升当り一三八・七円

行商人仕入一升 一五〇円(原告会社代表者申立)

業務用仕入一升 一二七・四円(右同)

右の算術平均 一三八・七円

(チ) 米仕入計上洩れ金額((ヘ)×(ト))六二、〇四〇円

一三八・七(円)×四四七・三(升)=六二、〇四〇(円)

(4)  その他の仕入等計上洩れ 一一、九六四円

原告が現金出納帳へ記載するのを洩らした仕入計上分が金一四、〇四八円あつた。この内米仕入二口分(一、三八四円と七〇〇円)を控除した分がその他の仕入等の計上洩れになる。

(5)  原告の係争年度の所得金額 原告の申告所得金額に右(1)(2)の売上計上洩れ金額を加算し、(3)(4)の仕入計上洩れ金額を控除した金額である金四八二、八九二円が推計による係争年度における原告の所得である。従つて右金額の範囲内である金三七六、三〇〇円(但し一〇〇円未満切捨)を所得金額とすることになつた被告の更正決定は何んら違法でない。

第四被告の主張に対する原告の反論等

(答弁)

被告の主張中(ニ)は認める。原告は被告主張のごとく先ず入出金伝票を作成しておき後日現金出納帳に転記していたこと及び現金出納に若干の計上洩れがあつたことは認め、原告の所得金額を推計により算出することそれ自体については争わない。

被告の主張(三)については原告の所得金額を酢の使用量及び中華そば、わんたんの原料仕入額より推計した算出方法は争う。

即ち被告の主張(三)のうち(1)の(イ)(チ)(ル)、(2)の(イ)(ロ)(ニ)(ト)、(3)の(イ)(ハ)(但しそのうち一人前当りの米所要量を七・五勺として原告の米総所要量を算出した点については否認する。)(ト)、(4)はいずれも認めるが、(1)の(ロ)(ニ)(ハ)(リ)、(2)の(ホ)(ロ)は否認する。従つてこれらの事実を基礎において行つた推計計算である(1)の(ハ)(ト)、(2)の(ハ)などはすべて争う。

(反論)

被告のなした推計算出方法には次のような誤りがある。

(一)  すし類の売上計上洩れについて

(1) (被告の主張(1)の(ロ)(ハ)に対し)原告の酢の使用量のうちすし類と一般料理との使用割合は概ねすし類六〇%、その他の一般料理四〇%である。従つて係争年度におけるすし類に対する酢総使用量が一石九斗×六〇(%)=一石一斗四升なのである。

(2) 原告の帳簿、伝票等により計算すれば、原告の酢の使用量の内容は次のとおりである。

(イ) 原告がすしに使用する魚のうち、しめ酢を必要とする魚(しめ魚という)の総量及びこれに対し使用した酢の総量は係争年度においては左記のとおりであつた。

魚八商店より仕入れたもの 二八貫五〇〇匁

右しめ魚に対し用いた酢の総量 二二六・五合

築地魚市場より仕入れたもの 四二貫五〇〇匁

右しめ魚に対し用いた酢の総量 三五七・三合

(ロ) 係争年度における原告のすし用切生茹の購入数量及びこれに対し用いた酢の総量

切生茹購入数量 一三貫三〇〇匁

右に対する酢の使用数量 一五九・六合

(ハ) 原告の食堂部におけるすし類の売上食数は一〇、八八四食であり(被告の主張(三)の(1)(チ)参照)、一釜からとれる食数を二六食とみるならば係争年度におけるすし類のため焚いた釜数は一〇、八八四(食)÷二六(食)=四一八・六(釜)となる。一釜に要する打酢の使用量をそこで二・一合であるとみると係争年度において用いた打酢の総量は八七七・八(合)=二・一(合)×四一八(釜) 一釜当りの打酢を二・三合とみると係争年度において用いた打酢の総量は九六一・四(合)=二・三(合)×四一八(釜)

(ニ) 手酢の総使用量 一斗九合五勺

三(勺)(一日の使量用)×三六五(日)=三〇九・五(合)

(ホ) 以上の酢の使用量を合計すると一石七斗三升七勺又は一石八斗一升四合三勺となる。原告会社は右の外酢の物冷しラーメン(一人前につき約一勺の酢を使用する)、その他酢を必要とする料理(例えばなまこをしめる場合、海老を茹でる場合、焼そばの場合、もやし生茹を漬ける場合、かき酢の場合)も販売しており、更に旅館部の売上、自家消費も多少ある。これらを加えると酢の総使用量は一石九斗に達すること明らかである。

以上を綜合判断すれば係争年度における酢の仕入総量一石九斗はすし類一〇、八八四食その他原告が損益計算書に記載した食品(右計算書に若干の売上計上洩れのあつたことは認めるが)等を売るのに必要な量であることが判明する。

(二)  中華そば類売上計上洩れについて

被告のなした原料仕入額からの推計は仕入原料が悉く商品となつて販売されたことを前提としている。しかし原料のうち何ほどかは自家消費に充てられたり、来客接待に供せられたりするものであるし、又夏季における売れ残りによる廃棄があることよりすれば推計の素材に原材料を用いること自体が不適当である。

第五原告の反論に対する被告の反駁

(一)  原告においてすし類以外の一般料理に使用された酢の量は、後記のとおり酢の総使用量中極めて僅かな割合を占めるにすぎないのであつて、これとすし類に使用された打酢以外の酢の使用量を合わせた量が総使用量の四〇%であるにすぎない。

今すし類以外に使用された酢のうちその大部分を占めるとみられる酢の物に使用された酢の量を概算してみる。

(イ)  酢の物の提供食数 一、六四五食

審査決定の際食堂部の売上伝票を品目別に分類したのであるが、酢の物は右伝票においては「その他」の品目中に含められてしまつており、そのため酢の物の正確な提供食数を認定することはできなかつた。そこでいまは「その他」の品目の食数一、〇三二を一応全部酢の物とみることにする。

次に旅館部における酢の物の提供食数であるが、原告備付の総勘定元帳の売上勘定の調査によると旅館部の料理の売上合計は金二二六、三九〇円であるところ、土地柄及び利用者の状況等からみて食事料理代金は宿泊者については平均三〇〇円、宴会利用者については平均五〇〇円とみるのが妥当であるからこれに従い宴会利用者数を算出すれば、四〇〇(人)(第三(三)(3)(ハ)において算出せる宿泊者数)×三〇〇(円)=一二〇、〇〇〇(円)

二二六、三九〇(円)-一二〇、〇〇〇(円)=一〇六、三九〇(円)

(宴会利用者料理売上)

一〇六、三九〇(円)÷五〇〇(円)=二一三(名)そして右宿泊者四〇〇名、宴会利用者二一三名、合計六一三名全員に酢の物を提供したとしてもその食数は最大限六一三食である。

よつて係争年度における原告売上げの酢の物の総量は六一三(食)+一、〇三二(食)=一、六四五(食)である。

(ロ)  酢の物一人前に対する酢の所要量 〇、八四勺

同業者より聴取せるところでは(乙第六号証)酢一升によつて一二〇人前の酢の物ができるとのことである。よつて酢の物一人前に要する酢の量は

一〇〇(勺)÷一二〇(人)=〇・八三三三(勺)(端数切上げして〇・八四勺)

(ハ)  酢の物に要した酢の総量 一、三八二勺

一、六四五(食)×〇・八四(勺)=一、三八二(勺)

(ニ)  酢の総使用量のうち酢の物に使用された酢の占める割合七・二七% 一、三八二(勺)÷(石)九(斗)=七、二七(%)結局すし類以外の料理に使用された酢の量のうち、その大部分を占めると認められる酢の物に使用される酢の割合は最大限に見積つて七・二七%になるにすぎない。これをもつてしてもすし類以外の一般の料理に使用された酢の割合が酢の総使用量の四〇%を占めるとの原告の主張は理由がないことは明らかである。

(二)  中華そば類売上計上洩れの推計に対する反論に対して自家消費については現物給与(給食費)金二八八、〇〇〇円を計上済であり、米の消費分を認定して追加計上しており、又贈答品費として金一、〇二〇円の計上もあるので、この種業態よりして、この上さらに中華そば類より現物給与、交際費等の計算をなす必要はない。

また、この業種では廃棄する程仕入をすることは考えられない。

以上のとおりで原告の反論は全て理由のないものである。

第六証拠

(一)  (原告)甲第一乃至第四号証及び第五号証の一、二を提出し、証人石井藤吉の証言を援用し、乙号証はいずれもその成立を認めた(乙第一号証は原本の存在とも)。

(二)  (被告指定代理人)乙第一乃至第六号証を提出し、証人金子正誠、同大村公夫、同高野清、同広沢富正の各証言を援用し、甲号証はいずれもその成立を認めた。

理由

(一)  原告が係争年度の所得金額を金一三四、三〇〇円、法人税額を金四七、〇〇〇円として確定申告したところ、被告は、原告主張の請求原因第一項記載のとおり、昭和三四年三月二五日付で所得金額を金七一七、二〇〇円、法人税額を金二五一、〇二〇円と更正決定し、これに対する原告の再調査請求により東京国税局長は昭和三五年六月二四日付で前同箇所に記載のとおり更正処分を一部取消し、所得金額を金三七六、三〇〇円、法人税額を一三一、七〇〇円とする審査決定をなしたことは当事者間に争いのないところである。

(二)  原告は、右更正決定は審査決定によつて一部は取消されたものの、なお何んら存在しない所得金額についてまで課税処分をなしている故その部分つまり所得金額金一三四、三〇〇円、法人税額四七、〇〇〇円をこえる部分は違法である旨主張する。しかし係争年度における原告の所得金額を推計して算出することそれ自体については原告も被告の主張第二項を認め、これを争うものではないと認められるので、本訴は被告の行なつた売上高の推計方法が合理的であつたか否かに争点が絞られる。

(三)  そこで被告主張の原告の係争年度における所得金額の推計による算定方法の適否を以下判断することとする。

(1)  被告のなした推計の根本方針は被告の主張第三項を綜合検討すれば原告の販売食品数を把握するため、係争年度における原告の仕入れた原料の数量から当該年度に原告が造つた食品数を推計し算出された食品数に対応する仕入洩れなどの数量を控除して、係争年度の原告の所得金額を求めたものであること並びに原告の販売食品のうちすし類については原料全種目からは推計をなさず、いかなる品目であれ必ず使用する原料である酢を用いて推計を行つたこと即ち係争年度において用いた酢のうちすし飯米に必ず使う打酢の全量を求め、この量に対応するすし飯米から係争年度において原告の造つたすし類の食数を求めたものであることが明らかである。而して成立に争いのない乙第三乃至第五号証並びに証人大村公夫、同広沢富正、同高野清の各証言を綜合するとすしを造るに際し用いる酢の量はほゞ一定といえ、職人による個人差などは殆んどなく、また飯米一釜からとれるすし飯米の量も大体一定であるとみることができ釜ごとに異なることはないと認定され、右認定に反するかにみえる証人石井藤吉の証言もこれを詳細に検討すればすしを造るに際し必要な酢の量がほゞ一定であること及び一釜からとれるすし米の量も大体一定であることは容認している趣旨であつて、ただその量において前掲各証拠と数的に相異しているにすぎないことが判明し、その他右認定に反する証拠は存しないのであるから(証人大村公夫の証言中右認定に反するかにみえる部分があるけれども、右部分は同証人によりその証言直後訂正されたものと認める)この認定に係争年度における酢の使用総量、中華そば、わんたんの原料仕入金額がいずれも当事者間に争いのない事項であることを併せ考えると、(この争いない)原料数量から推計を始めたそれに対応する製品が一定の割合で生じるとして売上洩れを算出せんとする前示根本方針は極めて適正なものであつて推計方法として何らとがめられるべき点はないと認められる。

(2)  そこですすんですし類の売上計上洩れの計算過程個々につき、逐次検討を加えることにする。

(イ)  係争年度における酢の総使用量が一石九斗であることは当事者間に争いのないところである。

(ロ)  打酢に用いられた量については、被告は一般料理に用いられた酢の量を考慮しても酢の総使用量の六〇%即ち一石一斗四升であると主張するのに対し、原告は酢の総使用量のうちすし類に用いられる酢の量が六〇%、一般料理に用いられる酢の量が四〇%であると争う。成立に争いのない乙第三乃至第五号証及び証人大村公夫、同広沢富正の各証言によると原告と同業であるすし類その他食品販売業者間での打酢の使用割合は六〇%あるいは六六%であることが認定でき、さらに証人金子正誠の証言によると原告方においても打酢の使用割合は六〇%なることが認められる。もつとも右証拠の中にはすし類並びにその他の食品のうち酢を必要とするものに対し、それぞれ用いられる酢の使用割合を顧慮しないまま、直ちに打酢の割合を求めようとしているかにみられうるものが存し、そのためそれら証拠は一見証明力が薄弱であるかの如く考えられるが、しかし前示書証をその作成順に検当してみるならば自ら明らかなことであるが、被告側において当初は、すし類以外の食品に対し使用する酢の量を考慮し、まずすし類に対し用いる酢が酢の総使用量中何程を占めるか調査しようとしていたのであるが、調査の進捗につれ酢は大部分すし類のみに用いられ、その他の食品につき用いられる酢は極めて少量であることが判明したため、単に打酢とそれ以外の目的に用いられる酢との割合を調査することに重点が移り、そのため調査の際もすし類以外の食品に対し用いられる酢の量につき質問が省略されたりあるいは殆んど無視して最初からすし類に用いる酢の割合のみを調べるにとどめた場合さえ存することが判明し、従つてかかる事情を顧慮するときは証人金子正誠においても証言時になつては打酢の割合のみが正確に記憶にとどまり、それ以外の食品に対する酢の使用割合は調査したか否かも不明瞭になつてしまうことは充分首肯できるところであり、その証言中原告方において酢の使用全量に対する打酢の割合を訊ねこれに対し原告側では六〇%である旨回答したとの証言部分もこれを充分措信することができる。なお右認定を裏付けうるものとして被告は原告の反論(一)に対し反駁をなしているので以下これを検討する。即ち被告は原告の販売する食品中すし類以外で最も酢を多く用いるものとして酢の物をとり上げ、これに用いた酢が全使用量中何程を占めるかを推計することによつて右の反駁をなそうとしている。右推計をなすに際し当事者間に争いのない原告の営業形態よりみて被告が酢の物を反駁の資料に採り上げたことは適正であり、食堂部において提供した酢の物の食数が係争年度にあつては最大限に見積つても一、〇三二食であることについては原告において明らかに争わないところであるほか、旅館部の料理売上が金二二六、三九〇円であること及び宿泊人員を四〇〇名とすることについては当事者間に争いのないところであり、旅館部の利用者の食事料理代金は宿泊者については平均三〇〇円、宴会利用者については平均五〇〇円とみるのが妥当であるとの点については原告において明らかに争わないところであるので、宴会利用者数はこれをXと置くと

二二六、三九〇=四〇〇×三〇〇+五〇〇×X=二一三名(小数点以下切上げ)

よつて宿泊者四〇〇名、宴会利用者二一三名合計六一三名が全員酢の物を摂つたとしても六一三食になり、従つて係争年度における原告売上げの酢の物の総量は六一三+一、〇三二=一、六四五(食)となる。而して成立に争いのない乙第六号証及び証人広沢富正の証言によると酢の物に用いられる酢は甘酢、二はい酢又は三はい酢のいずれであれ酢一升から酢の物が約一二〇人分作れることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。そうすると一人前の酢の物に用いる酢の量は一〇〇(勺)÷一二〇(人)=〇・八四(勺)(端数切上げ)

よつて原告において酢の物に要した酢の総量は最大限に見積つても一、六四五(食)×〇・八四(勺)=一、三八二(勺)(小数点以下切上げ)となり、これは原告の係争年度における酢の総使用量たる前示一石九斗のうち、七・二八(%)(小数点第三位切上げ)=一、三八二(勺)÷一九、〇〇〇(勺)を占めるにすぎないこととなり、被告の主張するところより〇・〇一%弱の増加はあるものの、結局すし類以外の料理に使用された酢の量のうち、その大部分を占めると考えられる酢の物に使用される酢は考えうる限りの最大量を見積つたとしても原告の使用した酢のうち僅かに七・二八%になるにすぎず、これによつてもすし類以外の一般食品に使用された酢の割合が酢の総使用量の四〇%を占めるとの原告の主張は理由ないものとせざるをえない。よつて被告のなした反駁は充分なる根拠を有するものであり、打酢の使用割合は六〇%である旨の前示認定を裏付けうるものと断ずることができる。原告の主張であるすし類に対する酢の使用割合が六〇%で、その他の一般食品への酢の使用が四〇%であるとの点及びこれを根拠付けるものとしての原告の反論(一)については、証人石井藤吉の証言に右主張に添い原告の反論を支持する供述部分が存するけれども、右は前掲の乙第三乃至第五号証あるいは証人金子正誠、同大村公夫、同広沢富正の各証言に照らし措信することはできず、他に打酢の使用割合を六〇%とする右認定を覆えに足りる証拠に何んら存しない。

(ハ)  当期係争年度の打酢の全使用量が(イ)(ロ)より一(石)九(斗)×六〇(%)=一(石)一(斗)四(升)となることは明白である。

(ニ)  成立に争いない乙第三乃至第五号証及び証人大村公夫、同広沢富正の各証言によると同業者間ではすし用飯米一釜に対し打酢を二合、二・二合あるいは二・一合使用することが認められ、証人金子正誠の証言によると原告では二・四合使用するとの申立がなされたことも認められるが、この証言から直ちに原告方では打酢を右申立どおり使用していたと断定することはできない。よつて同業者間での打酢の平均値を採ることにより推計をなすことが、被告としては最適の手段である。

(ホ)  さすれば打酢に使用せる酢の総量を右一釜当りの打酢使用量で除せば係争年度におけるすし用のため焚いた釜の総数が算出されることになる。

一(石)一(斗)四(升)÷二・一(合)=五四二・八(釜)(小数点第二位以下切捨て)

(ヘ)  成立に争いのない乙第四、五号証、証人大村公夫、同石井藤吉の各証言によれば一釜からとれるすしの食数は多いところで三〇人、少ない店では二三あるいは二四人分程度であり、原告は二六又は七人分位を握つていたことが認められ、右に反する証拠はない。よつて原告が一釜からとるすしの食数を二六・六六七食とみたことに何んら瑕疵はない。

(ト)  右(ホ)及び(ヘ)より係争年度における原告のすし売上総数が判明する。即ち係争年度における焚き上げたすし飯釜数に一釜当りのすしの食数を乗ずればよいのである。

五四二・八(釜)×二六・六六七(食)=一四、四七四(食)(小数点以下切捨て)

(チ)  右推定すし売上食数から、原告の確定申告において所得計算の算定基礎となつたすし売上食数を控除し、さらに旅館部におけるすし売上食数を控除(これは旅館部の売上げとして原告の損益計算書に計上されているから)し、その残余に原告方のすし一食分売上平均単価を乗ずればすし類売上の計上洩れが推計算出されることになる。而して右のうち原告が確定申告の際所得算定の基礎とした原告のすし売上食数が一〇、八八四食であること及びすし一食分売上平均単価が金一〇〇・八五円であることは当事者間に争いがなく、族館部におけるすしの売上推定食数については、まず原告の損益計算書に記載されている旅館部の係争年度における料理の売上高金二二六、三九〇円(当事者間で争いのない額である)の一〇%に当る金二二、六三九円を(被告においては)すしの売上高の最大限とみることにして、これを前示すし一食分売上平均単価で除して得た二二四食(小数点第一位切捨て)これを旅館部におけるすし売上食数とみることにすることとしたのであるが、証人金子正誠の証言により判明する原告の食堂部と旅館部の離隔からも旅館部においてすし類の提供されることが稀であることは首肯できる故、被告においては食数の計上の際小数点第一位を切捨てたため、旅館部のすし売上食数は結局旅館部の料理売上高の一〇%弱となりはするものの右の被告の推計は合理的なものとなしうる。よつて右の数値を前記のとおり算式に充てると

一四、四七四食-一〇、八八四食-二二四食=三、三六六食

三、三六六(食)-一〇〇・八五(円)=三三九、四六一(円)(小数点以下切捨て)

従つて原告には係争年度において金三三九、四六一円のすし類の売上計上洩れがある。

(3)  次に中華そば類の売上計上洩れにつき検討を加える。

(イ)  係争年度における中華そば、わんたんの原料仕入金額が金五一、四三〇円であること及び中華そばとわんたんの仕入割合が九対一であることについては当事者間に争いがなく、よつて

中華そば原料仕入金額五一、四三〇(円)×〇・九=四六、二八七(円)

わんたん原料仕入金額五一、四三〇(円)×〇・一=五、一四三(円)

(ロ)  証人金子正誠の証言によると中華そば原料は一〇〇円で一七玉であり、わんたんの原料は一人前当り一〇円であることが認められ、この認定に反する証拠は存しない。さすれば係争年度における原告の中華そば類(以下中華そば、わんたんを一括する際かく称する)の売上食数は(イ)の中華そば原料仕入金額を一〇〇分の一七倍したもの及びわんたん原料仕入金額を一〇(円)で除したものとなることが明らかである。

中華そば推計売上数四六、二八七(円)÷一〇〇(円)×一七(玉)=七、八六八(食)(小数点第一位切捨て)

わんたん推計売上数五、一四三(円)÷一〇(円)=五一四(食)(小数点第一位切捨て)

よつて中華そば、わんたんの推計売上数は七、八六八(食)+五一四(食)=八、三八二(食)

(ハ)  右推定中華そば類売上食数から、原告が確定申告において所得計算をなすに際しその算定基礎となした中華そば売上食数を控除した上、さらに旅館部における中華そば類売上食数を控除し、その残余に原告の中華そば類一食分売上平均単価を乗ずると中華そば類売上の計上洩れが推計算出されることになるのはすしの場合と同じである(前示(2)(リ))。而して右のうち原告が確定申告の際所得算定の基礎とした原告の中華そば類売上食数が六、一九一食なること及び中華そば類一食分売上平均単価が金四八・二四円であることは当事者間に争いがなく、旅館部における中華そば類の売上推定食数は前示(2)(リ)記載と同様被告は旅館部における料理売上高の一〇%の指針を採用しているところ、その方法が合理性を有することは同じく(2)(リ)で述べたとおりである故結局旅館部の中華そば類の売上推定食数は

二二六、三九〇(円)(当事者間に争いのない旅館部の係争年度における料理売上高)×一〇%=二二、六三九(円)

二二、六三九(円)÷四八・二四(円)=四六九(食)(小数点以下切捨て、この処理の許容しうる理由も(2)(リ)参照)

これらの数値を前記のごとく算式に充てると

八、三八二食-六、一九一食-四六九食=一、七二二食

一、七二二(食)×四八・二四(円)=八三、〇六九(円)(小数点第一位切捨て)

従つて原告には係争年度において金八三、〇六九円に当る中華そば類の売上計上洩れがある。これは被告の主張する金額を僅かに下廻るものであるが、被告の推計方式の瑕疵から生じたものではなく、小数点以下の端数の扱いから生じた差異にすぎない。従つて最終的に更正決定における所得金額を下廻ることにならない限り被告の推計方式に影響を及ぼすものではない。

(ニ)  ところで原告は中華そば類の推計につき、右は自家消費分、来客接待分、売れ残りによる廃棄分を考慮しない故不当である旨争う。ところで右費目のうち、自家消費分は給食費として、来客接待分は贈答費として、いずれも原告の営業のための必要経費となるものであり、従つて原告の主張立証にまたなければならないものであるところ、原告においては事実欄第二(二)Ⅳ記載のごとく給食費は金二八八、〇〇〇円、贈答費は金一、〇二三円であると主張するにとどまり、右金額を越える経費が必要であつた旨の主張は何んらなしておらず、しかし右金額は更正決定及び審査決定に際し必要経費として計上済みであることが、更正決定及び審査決定における当期申告利益金に法人税否認及び市民税否認の金額を合算した金額と原告主張の当期所得金額とが同一である(右各金額については当事者間に争いない。)事実から明らかである以上、被告が考慮した金額をこえる自家消費分あるいは来客接待分が存することを理由として被告の推計を不当とすることはできない。また原告には被告の推計の際考慮に値するほどの廃棄分は存しないことは弁論の全趣旨並びに証人大村公夫の証言により認められる。結局原告の主張を採用することはできない。

(4)  次に米の仕入計上洩れにつき考慮する。

(イ)  成立に争いのない乙第四、第五号証、証人大村公夫、同石井藤吉の証言によると一釜からとれる飯米食品は、すし類を中心とする店では二升の米で二三人前程度より三〇人前位までであることが認められ、これを平均すれば一人前の食品は大体七・五勺余の米によつて造れることが認定できる。

(ロ)  係争年度における原告の仕入れた米の量は確定申告をなす際の算定基礎となる原告備付の総勘定元帳の仕入勘定を調査したところ一六石三斗であつたこと、係争年度における原告の米所要量は原告備付の伝票に記載されている限りではすし類は一〇、八八四食、従業員給食分は八、七六〇食、旅館使用分は八〇〇食で合計二四、三三一食であること及び米の仕入単価が平均一升当り金一三八・七円であることはいずれも当事者間に争いない事実である。

(ハ)  さすれば米の仕入計上洩れは、原告備付の伝票で判明せる小計二四、三二一食と前記推計で明らかになつたすし類の売上計上洩れ分三、三六六食((2)(リ)参照)を合わせ、これに七・五勺を乗ずれば係争年度における原告の米総所要量が算出でき。

三、三六六(食)+二四、三三一(食)=二七、六九七(食)七・五(勺)×二七、六九七(食)=二〇七、七二七・五(勺)

右総所要量より前示一六石三斗という既に確定申告に際し所得からその米代金を控除されている部分を除き、それに米仕入平均単価を乗ずれば米仕入計上洩れ金額が判明する。

二〇七、七二七・五(勺)-一六三、〇〇〇(勺)=四四、七二七・五(勺)

右は所得金額より控除する数値となる故小数点以下を切上げることとし、

一三八・七(円)×四四七・三(升)=六二、〇四一(円)(小数点以下切上げ)

被告の主張と僅かな差異はみなせるが、直ちにそれが瑕疵とならぬことは(3)(ハ)に述べるところと同一である。

(5)  その他の仕入等計上洩れとして金一一、九六四円存することについては当事者間に争いなきところである。

(四)  原告の係争年度の所得金額は、原告の申告所得金額に(三)(2)(リ)の金額金三三九、四六一円及び(三)(3)(ハ)の金額金八三、〇六九円を売上計上脱漏金額として加算し、(三)(4)(ハ)の金額金六二、〇四一円及び(三)(5)の金額金一一、九六四円を仕入計上脱漏金額として控除することにより求められること明白である。よつて係争年度の原告の所得は金四八〇、二二五円となるところ、右金額の範囲内である金三七六、三〇〇円(但し一〇〇円未満は切捨て)を所得金額とすることになつた更正決定には何んら違法な点はなく、原告の本訴請求は全て失当である。よつて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 堀田繁勝 裁判官 石沢健 裁判官 谷川克)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例